[Japanese] All About Kaworu – Ikuhara Kunihiko Interview

Originated from forum.evageeks.org

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「そのままの君はいいよ」という魔力

「カヲルのモデルなんですか?」とは、今までに何人かにも直接訊かれたことがある。どこからの情報なの?本人としてまったく関知していないんだよね。カヲル君はルックスもかっこいいだし、僕がモデルなんて言ったらファンの人たちから苦情が来ると思うんだけど。でもね、まったく思い当たる節がないというわけでもない。庵野さんとは、まだ『エヴァンゲリオン』が準備中だったころ、密に交流があった。あるとき、『セーラームーン』のスタッフみんなで慰安旅行として温泉に行ったんだけど、そのメンバーに庵野さんも入っていたんだよね「1」。なんだかその夜は2人でずっと話しててね。みんあが潰れてしまったあとにも延々と、酒を飲んでは語り、露天風呂に2人並んでつかっては語り過ごしたんだ。

だから、その夜にカヲルとシンジのやりとり同じ匂いのする会話を僕らもしていたかもしれない、とは思うよ。それは実際に弐拾四話を見たときにも感じた。まあ、お風呂っていうシチュエーションも同じだし、わかりやすいよね。ただ、「好意に値するよ」というセリフを僕が庵野さんに言ったとか(笑)、そういう噂があるみたいだけどそれはよくわからない。僕がカヲルで庵野さんがシンジとか、そういうことではないと思うんだよね。だって、どっちかと言えば庵野さんのほうがカヲルみたいなシニカルなことを言うそうじゃない?そこで思春期のころの話をした記憶がある。僕は14,15歳の時には本当に絶望していて人生真っ黒だと思っていたんだよ。受験なんかのこともあって、少しの失敗も許されていないような気がしてね。今はさ、負け組のほうにも注目が集まっているというか、ダメになる自由もあるという感じがするけど、そのころは一回でも負けたらその先は闇でしかないように感じられた。’70年代まで安保闘争があったわけだけど、それも終わって、「ああ、やっぱり世界を革命するなんてことはできないんだな」って空気が蔓延してたんだ。だから自分は20歳までには死ぬんだろうと思っていたし、それ以降の人生なんてオマケみたいなものだって思っている―その話をしたんだ。もしかしたら、そういう話ができること自体がお互い貴重だったのかもしれないね。

あと庵野さんはセーラームーン好きでいてくれて「ああいう楽しい作品を僕もやりたい」とも言ってた「2」。SF的な世界設定だったりマシンのディテールだったりと、リアリズムを追求する方向にあった意識が、セーラームーンみたいな作品に触れて揺り返しが起こったのかなって思う。普通に楽しめるアニメーションの楽しさ、みたいのものが庵野さんのなかで新鮮に感じられた時期だったのかもしれない。僕のなかの庵野さんの印象というと、なんかそれこそ「人じゃない」ような感じ。大きくて、猫背で、なんかエヴァンゲリオンみたいだよね。よくカッターを持って、チキチキチキって出して「やあっ」ってやってたし(笑)。

父親に「帰れ」と言われたり、綾波から平手打ちを食らったり、アスカから「バカァ?」と言われたり、ミサとから「しっかりしなさい」と怒られたり……シンジはなかなか他者から肯定してもらえないよね。そんな中、唯一「そのままの君でいいんじゃないのか?」と言ってくれて存在がカヲルだったじゃないかと思う。「頑張らなくてもいいよ」って。だから、おもしろいけど男の子たちみたいには熱狂なになれないって思いながら『エヴァ』を見ていた女の子たちも、カヲルが出てきて初めて、ようたくシンジに感情移入ができるようになったのかもしれない。だから、みんなカヲルを好きなのかもしれない。ん?「そのままの君でいい」って僕が誰かに言ったことがあるかって?そんなのいつだって言ってるに決まってるじゃないか。

「1」『エヴァンゲリオン』監督・庵野秀明も制作スタッフとして参加。『美少女戦士セーラームーンS』103話原画、ウラヌス&ネプチューン変身バンク演出や、幾原監督作『劇場版美少女戦士セーラームーンR』の原画などを手がけている。

「2」『セーラームーン』主役の月野うさぎ役の声優三石琴乃(ミサト役)の起用や、『R』に少年役として出演していた緒方恵美(シンジ役)の起用など、強いリスペクトの意が感じられる。

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