Japanese 3.0 Ogata Interview

Obtained from pastebin.com (5/4/13)

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緒方恵美 (碇シンジ役)
「そうか、あれを……あれを自分がやったんだ」と14歳で思ったら、どうだろうって……。

——まず、今回の『Q』に対する率直な印象からお願いします。

緒方  きっとお客さんは「これは何?」って浦島太郎みたいな状態ですよね。実はわれわれも同じ立場なんです(笑)。

——台本を読まれてビックリという感じでしょうか。

緒方  年明けに林原(めぐみ)さんから久しぶりに電話があって、吉祥寺で濃厚な飲み会に呼ばれて事前に説明を受けたんです。だいぶ遅れて行ったら庵野さんの他に一部の役者がいて、そこで庵野さんが(三石)琴乃さんに「今回のミサトはこういう設定になったから」みたいなお話を、ちょうどされ始めていたところで。緒方(シンジ)だけは心も身体も中学生のままで、他のキャラは全部時間が経ってる。そしてもう少し若めの新キャラが入るので、20代~30代の役者が新たに参加することになると。

——それで実際に眠りからさめたシンジを収録されたときは、いかがでしたか。

緒方  声録りの時点で、Aパート(シンジが目覚めてからヴンダーを去るまで)は割と画が入っていたんです。なので、シンジに向ける他のキャラクターの目線まで、はっきりわかるようになっていた。まずその表情の怖さにビックリしました。台本上も「冷たく」とは書いてあるんですが、シンジの目線で見上げたカットがあったりすると、いろんな人が見下ろしている構図になるわけで……。特に新キャラの人たちは今までの流れを知らないし、シンジとの直接の関係性もないわけですから、「許せない」と思われるのも当然。だからその分、冷たさがダイレクトに伝わってくるし、中の人(役者陣)もそういう芝居をストレートにぶつけてくる。だからずっと、その怖さに怯えながらも、不安と疑問いっぱいの気持ちでAパートを録ってました。

——実際のシンジそのままですね。

緒方  そうですね。でも、きっとお客さんも同じ思いをいだかれましたよね?「なんでこんなになっちゃったんだ?」って。ミサトさんはサングラスでカゲになってて表情が分かりづらく怖いし、リツコさんは短髪になってて、けっこう……あの、女子はどうしてもそういうとこ見ちゃうんですけど、加齢しちゃってるのまでわかる感じだし……。そんな「いつもなみんな」や「ハジメマシテな方々」がみんな冷たい上に、(庵野さん流の録音なので)ものすごくたくさんテイクを重ねられるわけです。……そう!お客さんと私が違うのは、あの怖い演技を、何度も何度も聞かされたってことでした!「ああ……本当に自分は、なんか、ひとりぼっち……」みたいな気分になって(笑)。かなりの疎外感でしたよ~(笑)。

——物語の主人公なのに疎外感があるのは、どういうお気持ちでしたか。

緒方  シンジが疎外されること自体は、前からよくあることでしたが(笑)。……でも、明らかに前とは違う。あんなに誰一人として近い距離の人がいない、みんなが敵意むき出しにするって感じはなかったはずで、疎外感は前作以上です。しかも『新劇場版』ではTVシリーズと違って、『序』の終わりの方からシンジ的には別の進化を始めていて……特に『破』では、精神的にもう一段上のところに到逹していたから……。

——使徒から綾波レイを助けようとするクライマックスですね。

緒方  ええ。子どもっぽい感じではありましたが、子どもっぽいなりに彼の中にはある種の逹成感があって、そのまま眠っていたはずだと思うんです。その逹成感からの突き落とされ方がハンパない。「なんで--?」みたいな(笑)。

——一度アガってただけに、落差はでかいですね(笑)。

緒方  しかも、さらにカヲルくんの件で突き落とされるわけですよ(笑)。かなりヒドイです。『破』のときも、悲鳴を上げたり咆哮したり、私自身が物理的に身体を痛めつけながら演ってた部分は、やり甲斐はありましたがキツかった。ですが今回は、肉体的にはそうでもないのに、精神的にはもう……いまだかってないくらいに突き落とされちゃった感じでして。かなり辛かったですね。

カヲルとの収録で見えた光景の衝撃

——中盤以後は、カヲルとのシーンが中心ですね。

緒方  ええ。前半はまだ良かったんですよ。「なんでなんだろう?」とまだ探ってる部分もあったし、シンジはシンジなりに強くなってきていたから、分からないなりに「そんな風に言われるいわれはないんじゃないの?」って部分もチラリと見せるし。綾波が迎えに来た時ヴンダーを出て一緒に行くことを選んだのも彼の意志だし……。でもいちばんキツかったのは、カヲルくんに連れられて「君の知りたい真実だ」って見せられた光景です。外の高い階段みたいなところを踏みはずしそうになりながら行って、雲がきれると景色が見えて、サードインパクトの結果が……。しかも「すべてのきっかけは、君なんだよ」なんて言われて……。収録用にいただいた映像を自宅で見たときには何にも描かれてなかったので、具体的な光景は、現場で庵野さんに聞いたんです。それで説明を受けたんですが……。収録時期がちょうど3月中旬で、TVで多く流れていた1年前の災害の映像の、とある街の光景と重なり、「あれが自分の(シンジの)せいだとしたら」と想像した瞬間に、もう……。「うわ---っ」ってなっちゃって……。

——それはかなり厳しいですね。

緒方  ショックを受けている私をみて、いつもマイペースな石田彰くんが、急に立ち上がって、「オ、オガっちゃん、僕、コーヒー淹れてこようか?砂糖とかミルクとか、いる?」とか、「肩を揉もうか?今日は何でもしてあげるよ!」とか急に言い出して(笑)。長年お仕事ご一緒させてもらっていますが、普段絶対そういう感じのことを言う人じゃないんですよ彼は!いやそういうマイペースなところが大好きなんですけれども(笑)。「い、いや……。大丈夫、ありがとう」って返したんですけど、相当ヤバく見えたんでしょうね。「き、君がやったんじゃない、君じゃないよ。シンジだよ」って(笑)。「同じことだよ……」「う、うん……」て、2人でうつむいて終わったんですけど(笑)。優しいんです彼は。とにかく「あれを自分がやったんだ」と14歳で思ったら、どうだろうって……。そう思ったときに感じたまま、もう芝居じゃなくて、言われたときのショックのまま演りました。罪悪感はもちろん湧くけれど、だからこそそういうとき、入っていうのはどこかに救いを……特に子どもだったら求めてしまうんじゃないかって。「だって仕方がなかったじゃないか、そんな風になるとは思わなかったんだ」「それでも一人だけは助けたから、良かったじゃないか」って思って、心を保とうとしていた。でもそのたった一人だと思っていた人も、実は違う人だった。助けてなかったんだ……って。いま、話していてもしんどいんですけど。大人の自分でも耐えきれないなと思うくらいだから、もし自分が14歳のときにそういう風に言われたら、どうしたらいいんだって思って、そこから先はずっとしんどかったです。そして結局は……。その道案内してくれた人でさえ、死んじゃうわけじゃないですか。また例のごとく。

——カヲルの最期は、今回ひとつのクライマックスですね。

緒方  最初のプレスコのときはコンテ撮(画コンテを撮影した仮映像)だったので画がはっきりしてなかったんですけど、こないだ録り直しをしたときには原撮(原画による仮映像)の画があって、完成フィルムに入る撮影処理がなかったんで、かなり細かい部分まで見えてしまったんですよ。それでよけいに「ムリだ!」って思っちゃって、かなりしんどい感じでした。こっからどうやって立ち直るのか、今はぜんぜん見えないです。すいません……。

——いえいえ。シンジとしての心情がよく伝わってきました。

緒方  個人的にはだいぶヤラレたままで出た芝居ですから、完成絵と合わせてみたら、もしかしたらトゥーマッチに聞こえてしまうかも、とも思うのですが、OKが出た芝居ではあるわけなので、ディレクター判断を信じようと。お客さんに何か感じてもらえるものがあればいいなと思います。

対等に出逢ったカヲル唯一の希望も絶望に

——もう少し収録の様子についてうかがいたいのですが、カヲルくんと絡んでのお芝居は久しぶりですよね。

緒方  そうですね。今回は「落ち込んでいるシンジに何か話しかけてくれる人」ってところから始まる関係性。TVシリーズのときって感覚・感情の記憶しかないんですが、昔とは少し違いましたね。前は最初から彼にすがりたくなるような感覚だったんです。周りに誰も頼る人がいなくなっちゃって、そこにカヲルくんが現れるので、「ああ、君が仲良くしてくれるんだね、助かった、救われた」って、そんな感じでした。でも今回は『破』を超えてるシンジなので、目線的には割と対等っていうか……「何だか分からないけど、好意を持ってくれてるらしいってことだけは伝わってくる」みたいな。やはり、だいぶ違うなって思いますね。カヲルくんに引っ張ってもらうとか教えてもらうっていうよりは、対等の友だちに徐々になっていく行程が描かれている感じがする。ガーンと落ち込んでた時に不思議な少年と出会って、いっしょにピアノを弾いて、少しずつ距離が縮まっていく。そんな中で「あれが君のやったことだよ」みたいに言われて、すごくショックを受けるんだけど、その後もまだカヲルくんと話してるうちに、「13号機にいっしょに乗って槍を引っこ抜けば、元に戻るんだ」と言われて、「じゃあ行こう!」と能動的にアクションを起こそうとする。たとえ落ち込んでても、ただ落ち込みっぱなしになるんじゃなくて、人と関わる中で希望を見いだそうとするようになる。そんな『新劇場版』ならではの強くなったシンジだから、カヲルくんとも少し違う関係になっていったんだと思います。

——ピアノをいっしょに弾いて、EVAをタンデムで操縦するとか。新しい要素も入ってますね。

緒方  そうですね、連弾が対等の象徴みたいな……。

——カヲルの方も、急に弱気になるのは新しかったですね。

緒方  そう、そうでした。「初めての想定外」みたいなことを庵野さんが言われてました。カヲルってどんなときでも……最期の時でさえ達観した人だったのに(笑)。今回は今までにも増して、役者側も庵野さんも、少しずつ考えて繰り返し試しながら、録っていたように思います。

女性がたくましく感じられる『Q』

——客観的にはなりづらいと思いますが、『エヴァ』と長いお付き合いをされてきた立場から、『Q』の物語への感想も聞かせていただけますか。

緒方  シンジが本当にシンドイなあ~という感想は、きっとお客目線に自分がなっても変わらないと思うのですが(笑)、個人的には……それぞれのキャラクターみんなが、アスカもミサトさんもカヲルくんも、あれからもう一段ステージが上がったところでの、「さらなる試練」を受けていて、大変だなあと思います。だからっていうか……。救いようのない感じということでは、前の劇場版の最後みたいな終わり方に近いものではあるんですが、あくまでも「近い」に過ぎない。前のときより、ものすごく希望が感じられる。それが具体的に何かは、今は分からないですけどね。だって、今回、女子がみんなたくましいじゃないですか。男はみんなダメだけれどね(笑)。

——そうですね。みなさん毅然と目的をもって行動されてますね。

緒方  うんうん。アスカがまずたくましいし、レイちゃんも分からないなりに何かを感じようとしてる気配があるし。マリはもちろん強いし、ミサトさんもそうだし。なので、女の人に引っ張ってもらおうかと!(笑)。女性陣が「希望」です。シンジ自身はダメですからね、現段階では(笑)。……え?私?私は生物学上は女ですが、ここでは男性脳なので。わたくし(シンジ)のハートは、まったくの絶望です。(ゼーレ風に)絶望only(笑)。

——そこで映画が終わってしまうのも、衝撃でした。

緒方  今回の収録は、庵野さんから「君の思ったように演ってよ」と言われる場面が多かったのですが、やはり『破』でステージが上がっているということで、お願いしていくつかセリフのニュアンスを変えてもらったりもしていました。ですがカヲルくんが逝っちゃうところを録らせていただいた時点で、「どうしよう、この後のセリフ、どう言えばいいのかわからない……」と困ってしまったんですね。そうしたら庵野さんの方から「うん、この後は緒方、しゃべりたくないでしょ」って。「はい!」「じゃ、ここから先のシンジはセリフ全部カットで」「ありがとうございます!」って(笑)。庵野さんとシンクロ率400%になった瞬間です!(笑)。

——すごい。まさにシンクロですね。

緒方  台本には「何をやってもダメなんだ」とか、そんな感じのセリフがいくつもあったんですが。本当に「ありがとうございます!」って感じでした。

劇中の14年間と新たな試練を乗りこえて

——初期のシンジって「EVAに乗れ!」って言われて「乗りたくない」って言い続けてた印象がありますよね。でも、『破』を経た『Q』では「僕をEVAに乗せてください」ってシンジが言ってるのに「乗るな!」って言われる。折り合いのつかない人生だなと。

緒方  ホントそうですよね!まったく何なんですかね~(笑)。でも、仕方ないですね……。14年も経ってるって、あのときは知らなかったわけですし。私だけはまったく『破』の続きでしたが、他のキャストのみなさんも、だいぶ戸惑われてたようでしたね。

——描かれてない14年間を想像されなければいけないですからね。

緒方  とあるシーンのセリフが落ちてこなくて、その理由と改善策を庵野さんに相談しに行こうとしたら、宮村も「私もいっしょに聞いていいですか?」って。「腑に落ちてない部分があるんで、いっしょに聞いて今のアスカのヒントを拾います」って言ってきて……一緒に解決し、一緒に笑顔になりました(笑)。やはり14年間のギャップをどう埋めるか、みなさんそれぞれ苦労されたんじゃないでしょうか。

——14年分、成長したレギュラー陣はどう思われましたか。

緒方  ミサトさんもリツコさんも、今っぽくて格好よくなりましたよね。90年代的な感じが消えて、ちょっと垢抜けて、女性としてすてきな感じに……今、現実世界にいてもおかしくない感じになりました。そうそう、伊吹マヤちゃんはずいぶんしっかりした感じになって、一番変わったかもしれませんね。「これだから若い男は」みたいなことまで言っちゃうくらいに。赤木先輩にあこがれてたのにね。これからは、マヤに惚れる女性が出てくるかも!そうやってみんな大人になっていくのに、シンジは……(笑)。

——そんな録音現場の雰囲気は、どのように感じられましたか?

緒方  私は最初、新メンバーと一緒に録っていました。(大塚)明夫さんと(大原)さやかは別でしたが、他の3人、(伊瀬)茉莉也ちゃんと沢城(みゆき)と勝杏里と、ミサトさん、リツコさんも一緒に。庵野さんが新メンバーに「エヴァの現場は特殊なんで、なんか分からないことがあったら、ベテランの緒方さんに聞いてください」とかおっしゃったおかげで、やや大変な思いはしましたが……。案の定、休憩時間に沢城嬢の質問攻めに!(笑)。エヴァの……特に『新劇場版』になってからの現場は、より庵野さんカラーが強くなり、普通の音響現場より要求が細かく、ターゲットポイントがとても狭い。通常の現場ならOKが出る所を、その何倍~何十倍もかけて、役者さんの芸歴の長短問わず、徹底的に追求をかけた拘りのセリフを録りぬこうとされるので、初めての役者さんだと相当戸惑わられるだろうなと思います。

——中盤以後の雰囲気はどうですか?

緒方  ほぼカヲルくんと二人だったので、お互いに気遣いあい、励ましあってました(笑)。二人で目配せをしたり、片方が落ち込んでるときは、さっき言ったように石田くんがコーヒーいれてくれたり、私が「エヴァのウエハース、意外とおいしいよ」なんて言い出したり。かなり長い時間、二人きりで……最後のまるまる1日は、冬月との会話が一瞬あるくらいで、ほぼ石田くんと二人きりでがんばって乗りきりました。

——冬月との会話も珍しいですよね。

緒方  はい。ただ、そのときのシンジはショックを受けた直後でぼーっとしてる状態だったんで、私としては能動的に清川さんと絡ませていただきたかったんですが、残念でした。

——今回、シンジはピアノを弾くシーンもありました。

緒方  私もピアノを弾くので、あれだけすぐに弾けるようになるなんてムリだろ!と突っ込んでました(笑)。ピアノは難しいですから。きちんと鍛錬を長年積まないとあの音にならない。以前から「チェロうますぎ」って思ってましたが……音楽的な才能のある少年なんですかね。私もチェロは1年くらい触ったことがありますが、ベースよりも弦が太くてものすごく指が疲れるし……もしかすると、エヴァパイロットである事実が、起因しているのかもしれませんが。

——最後の締めくくりの言葉をいただきたいですが、先ほどの「女性がたくましい」というのは、今回の『Q』で非常に重要な指摘だと思いました。

緒方  私が言うのも何ですが、だいたい世の中って女子の方がたくましくできているじゃないですか(笑)。で、男はリードしているように見えて、女子に転がされているという(笑)。これもまた、庵野さんのライブ感?なのかはわかりませんが。ここまで世界がムチャクチャになってしまってるのに、こんなに女性が元気で、「行くわよ!」って男が引きずられていって、そこから何か復活してくるかも……っていうラストの感じ。生命力を感じます。今回、本当に女性陣、格好いい。だいたい周りのキャストを見ていても、まず林原さんと琴乃さんがたくましいし、宮村も沢城もたくましい。尊敬します。

——特に今回の宮村さん、ずっと怒ってずっと戦っていたのが印象的でした。

緒方  あれはすごかったですね。第一、宮村自身、たくましくオーストラリアで子ども育ててますから。「子ども育てるためなら、がんばりますよ!」って。お母さんになった女子は特に強いです。あ、お母さんでなくても、沢城は強いか。……やっぱり男性脳な私だけがヘボいだけでした……(笑)。

——いえいえ、まだ次がありますので。どうも、お疲れさまでした。
おがた・めぐみ 東京都出身。フリー。代表作は『美少女戦士セーラームーン』(天王はるか役)、『幽☆遊☆白書』(蔵馬役)、『めだかボックス』(球磨川禊役)など。

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